建築家と建てる家を、
もっと身近なものにする。
一般的にデザイン住宅は建築家と建てることになるが、建築家自身のキャパシティの都合でそれほど多くの棟数を抱えきれない、という側面がある。ミラタップの商品は建築家に使用されるケースが多く、その施工事例から建築家の考え方を分析・言語化した「デザインコード」を開発。「デザインネットワーク」に加盟する全国の工務店にそれを提供し、デザインに対しひときわ強いこだわりをもつ施主の想いに幅広く応えることを目指した。これは、住宅設備機器メーカーが住宅建築を手がけるという過去に例のないプロジェクトである。
濱田 広一Hiroichi Hamada
スペースデザイン事業部長 兼
株式会社ベストブライト代表取締役社長
工学部 応用化学・合成化学科 卒
2018年入社(キャリア入社)
大手住宅設備機器メーカーで水回り商品の開発に25年近く携ったのち、2018年にミラタップ(当時はサンワカンパニー)に入社。
現在は商品部長として新商品の企画開発、スペースデザイン事業部長として新規事業の企画を推進、グループ会社の工務店の経営にも携わっている。
住宅設備機器メーカーが手がける住宅建築
注文住宅を建てる際の依頼先は、ハウスメーカー、工務店、設計事務所の3つに大別される。上質で洗練されたデザインの家に憧れを抱く施主は、その中から設計事務所、とりわけ建築家が主宰する設計事務所へ依頼することになる。建築家は施主の潜在的なニーズを引き出し、それを個性的かつ創造的な住空間に落とし込む。
しかし、現在日本国内において、建築家の設計による家は4%程度に留まっている。なぜならば、一人の建築家が年間に設計できる家はせいぜい1棟か2棟であり、数多くの施主の依頼に対応しきれていないからである。そこでミラタップは、建築家の思想を言語化したデザインコードを開発。デザインネットワークに加盟する全国の工務店にそれを提供し運用することで、デザインに対しひときわ強いこだわりをもつ施主の想いに幅広く応えることを目指した。
「Assort(アソート=取りそろえる・調和する)+遊び+家」の造語で「ASOLIE(アソリエ)」と名づけられるこのプロジェクトの立ち上げを任されたのは、2018年にキャリア採用でミラタップ(当時はサンワカンパニー)に入社し、商品部長に就任した濱田である。
大手住宅設備機器メーカー出身の彼は、25年近くにわたりキッチンや洗面化粧台、ユニットバスの商品開発に携わってきた。業界売上高シェアからすると、ミラタップの存在感はそこまで強くない。しかし、2000年に開始した住宅設備機器・建築資材のインターネット販売は業界に大きなインパクトを与えた。販売価格を透明化し、エンドユーザーがフェアに商品を選ぶことのできるビジネスモデルは、濱田にとっても興味深いものだった。
空間づくりとは自己表現である。統一された規格ではなくさまざまなデザインテイストから理想のライフスタイルに合わせ自ら決定することは、創造力や感性を育み、人生を豊かにすることにも繋がる。そのような思想をもつミラタップが、住宅設備機器・建築資材の販売に留まらず、住宅建築そのものを行うというのは、当然にして前例のない取り組みである。
無難なデザインと斬新なデザインがあれば、迷わず後者を選ぶ。決して保守的にならないのが濱田の信条だ。通常業務である商品の企画開発において、彼はそれを徹底している。そしてその信条がASOLIEにも反映されることになった。
社内外の体制づくりを率先垂範で断行
プロジェクトは2020年10月にスタートし、濱田はまず社内外の体制づくりに着手する。社内の体制としては、スペースデザイン事業部が新たに設立された。ただ、事業部と名が付くものの、事業を企画し推進するメンバーは濱田一人だけだった。住宅設備機器と建築資材、さらに住宅建築にも精通し、加えて新規事業の立ち上げ経験がある人材となると条件的に厳しく、なかなか適任者が見つからなかったのだ。
キャリア採用の求人でも適切な人材は見つからず、当初は、社内公募でも立候補者は出なかった。プロジェクトを一人で進める中、この先どうしようかと思い悩んでいると、ある日突然社内で立候補者が現れ、プロジェクトは加速し始めた。その1年後には、さらに他部署から異動してきた社員も加わり、スペースデザイン事業部は7名体制で本格稼働することになる。
次に社外の体制として、ミラタップと加盟工務店が一体となって運営するデザインネットワークが構築された。これは、両者がデザインや設計の手法を共有したうえで、自由設計の家を協働で供給する住宅のボランタリーチェーン(同じ目的をもつ独立小売店が組織をつくり、チェーン店を形成するビジネスモデル)のようなものである。
ミラタップは加盟工務店にデザインコードを提供し、活用セミナーを開催する。一方の加盟工務店は、施主の要望をヒアリングし、デザインコードを使って設計・施工を行う。また、ミラタップから施主側に対するアプローチとして、フラッグシップハウスの公開や、WebサイトおよびSNSでの具体的なデザイン紹介が想定された。
ミラタップはインターネット販売によってエンドユーザーの顧客を獲得するBtoCモデルに成功したが、住宅設備機器・建築資材販売における従来型のBtoBモデルは不得手であった。ASOLIEネットワークへの加盟は工務店や設計事務所などのプロユーザーがメインターゲットとなる。そしてこれは、濱田が最も得意とする事業領域だった。彼は前職での知識や経験、人脈を活かし、率先垂範で加盟工務店を募った。
濱田はプレイングマネージャーとして、現場の最前線で指揮を執る。プロジェクトに関わる全ての業務をまずは自ら実践し、そのうえでメンバーに指示を出した。そもそも営業経験も無い若手メンバーにとって、工務店向けの営業は新鮮に映ったようだ。
全国どこでもASOLIEの家が建てられるように
2022年4月にサービスが開始されたASOLIEにおいて、大きな鍵を握るのが70種類のデザインコードである。ミラタップが長年培った知識や情報をもとに建築家の山路哲生氏と共同開発されたデザインコードは、同社の商品のようなシンプルでミニマルな空間づくりを行うためのポイントを、建築家目線で言語化し具体例を提示する設計ノウハウの解説書のようなものだ。このデザインコードの共有や活用セミナーを通じ、加盟工務店と住宅デザインの向上を図っていくことになる。
さらに同年6月にはASOLIEのフラッグシップハウスが兵庫県芦屋市に完成した。「街とつながる家」がテーマとなったこのフラッグシップハウスは、3つの箱を雁行配置した構成の外観で、大きな2つのデッキと3つのルーフバルコニーが立体的に配置されている。また、内部については、LDKから水回りや収納に直接アクセスできる無駄のないシンプルな空間と動線を実現した。加盟工務店や施主は、デザインコードをもとに建築するASOLIEの家の実例をこのフラッグシップハウスで確認することができる。
改めて整理すると、デザインネットワークに加盟する工務店は、セミナーによるノウハウ共有やツールの提供、集客支援など、さまざまなメリットを得る。施主からすればまるで建築家が設計したようなデザイン性の高い家を、地域特性を熟知する工務店に予算に合わせて建ててもらえることがありがたい。そしてミラタップとしては、多数の自社商品がASOLIEの家の中に採用され、売上向上に繋げられる。そのようなビジネスモデルになっている。
とはいえサービスとしてはまだ始まったばかりで、2022年末時点で加盟工務店は全国で30社。全国をカバーするためには加盟工務店100社のネットワークが必要である。どこでもASOLIEの家が建てられるようにするために、濱田はプロジェクトをさらに加速させる。前例の無いことに果敢にチャレンジするそのスタンスは、これからも決して変わることはない。ミラタップの経営理念である「くらしを楽しく、美しく。」を、世の中に浸透させるべく邁進し、日本の家を美しく、ひいては美しい日本の街並みを実現するのが彼の描く未来図だ。
完全無人ショールームで、
接客にイノベーションを。
島川 健太郎Kentaro Shimakawa
拠点事業部 東京支店
文学部 芸術学科 卒 / 2019年入社